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最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)659号 判決 1960年3月10日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人倉重達郎の上告理由第一点(1)について。

しかし、記録によれば、被上告人(原告)は一審において、「請求趣旨並原因拡張及仮執行申立」および同補充書に基いて陳述し、「被告は原告が現に居住している家屋の西側部分の北部に残存しているコンクリート煉塀で別紙見取図の赤線(高さ一一尺乃至一二尺横幅四一尺-のちに高さ一二尺乃至一二尺五寸長さ延長五一尺と訂正)部分を除去してこれが崩壊による危険防止の処置をしなくてはならない」と申立て、更にその危険防止の具体的工事方法として所論鑑定書の記載を援用したものであることが明らかであり、そしてそれが結局主文二項と同趣旨に帰するものであるから原(第一審)判決がこれを以て「主文二項同旨」としたからといつて、何らの違法も認められない。もつとも右請求趣旨の補充は、口頭弁論における口頭の陳述を以てなされたものであることは所論のとおりであるが、請求の趣旨補充の方法には、別段一定の方式が定められているわけではないから、既に請求の趣旨としてその内容が一応明確に特定されている以上、その内容を更に明確にするための補充を後に口頭弁論期日の口頭の陳述を以てしても不適法であるとはいえない。それゆえ論旨は採るを得ない。

同(2)の(イ)について。

しかし、鑑定人に対し、目的物件を特定して鑑定を命じた事実がある以上、現実にその物件を指示しなくても違法ではなく(昭和二八年一二月一八日当裁判所第二小法廷判決、集七巻一四四六頁参照)、また鑑定人が鑑定のための資料を蒐集しようとする場合必ずしも当事者の立会を要するものではないから、たとい上告人の立会なくして所論鑑定が行われたとしても違法とはいえない(所論は、被上告人のみに立会わせたものの如く主張するが、被上告人は所論鑑定人が被上告人方に赴いて調査を始めた際、偶々その場に居合わせただけのものであることが記録上窺える)。

同(ロ)乃至(ヘ)について。

しかし、原(一審)判示の所論建物の面積および評価格の認定は挙示の証拠に照し首肯するにかたくない(延三七、四〇坪の建物部分の価格二六八、〇〇〇円とあるのは二六八、八〇〇円の誤記と認められる)。所論はひつきよう原審が適法にした証拠の取捨判断および事実の認定を争うに帰するから採るを得ない。

同(ト)について。

しかし、鑑定に理由が示されていなくても、採つて以て事実認定の資料に供し得ないわけのものではない(大正五年(オ)二三一号、同年五月六日大審院判決、民録二二輯九〇四頁参照)。それゆえ論旨は採るを得ない(もつとも、所論鑑定人の鑑定および鑑定証人の証言には、所論修理費の評価につき、ある程度の根拠が示されている)。

同(チ)について。

しかし、理由を示さない鑑定であつても、採つて事実認定の資料に供し得ないわけのものでないことは前記のとおりであり、原(第一審)審の所論認定は挙示の証拠に照し肯認にかたくないから、論旨は採るを得ない。

同第二点について。

しかし、不法行為によつては、財産以外に別途に賠償に値する精神上の損害を受けた事実がある以上、加害者は被害者に対し慰籍料支払の義務を負うべきものであることは民法七一〇条によつて明らかである。原審はその認定した事実関係にもとづき、被上告人は上告人の不法行為により財産損害の賠償と別途に賠償に値する精神上の損害を受けたものとして、慰籍料の請求を認容したのであり、その判断は正当として是認すべく、本件事故が偶然の天災によるものであるとの所論および上告人には損害発生の予見がなかつたとの原審の認定に反するから採るを得ない。

なお、原(第一審)審の判断には引用の判例と矛盾するところありとは認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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